これまで紹介してきたゲームは、Huカードによるゲーム。ファミコンやメガドライブのソフトと同じような存在でした。
「同条件で3機種を比較する」となった場合には、Huカードで比較するのが最適でした。
しかしPCエンジンの性能を、ファミコンやメガドライブと同列に語ることはできません。
それはPCエンジン本体の発売の1年後に発売された、CD-ROM2の性能、特に容量が、他の2機種では比較にならなかったためです。
CD-ROM作品を、カートリッジ作品と同列に扱うのは、あまりにも不公平。
実際、この世界で初めて家庭用ゲーム機に応用されたCD-ROMにおいて、ハドソンはそれまでの誰も想像できなかったゲームを次々と実現していくのです。
今回は、PCエンジンの個性を決定づけた、CD-ROM2の作品を紹介いたします。
1,天外魔境ZIRIA
このCDーROMの登場後、少しの間をおいて発売されたのが「天外魔境」と言うRPGゲーム。
このゲームこそ、「CD-ROM」の性能を世に知らしめた作品。
ジャンルはドラクエと同じRPGですが、スケールは全く異なっていました。
まずタイトル画面からして違う!何が違うかっていうとBGM。
なんとフルオーケストラの演奏が、そのまま流れているではないか!!
それまで電子音に慣れていた当時の子供たちにとって、ゲーム画面から本物の楽器のの演奏が流れてくるなんて、衝撃という言葉ではおさまらないレベルの、ショックを与えました!
この生音を聞いて「ああ、これはCDなんだよなあ」と思いだされました。
そう、CDーROM2は、ゲーム機の新しい形であると同時に、当時、普及していた音楽CDでもあるんだ、と実感。ゲームソフトと音楽CDの融合を、ゲームを通して子供たちに実感させたのです。
ゲーム開始後も衝撃を受けます。なんとゲームでアニメが流れているではないか!!
そりゃ今のゲーム機と比べれば、まだまだ荒いものではあったけど、ゲームでアニメシーンが出てきただけで、音楽と同じく子供たちに衝撃を上回るショックを与えました。
しかもしかも、本物の声優の声が聞こえているじゃないか!!
それまでのファミコンゲームでも、電子音を合成してなんとか「人の声」もどきのことを演出していたことはありました。正直、「がんばっているなあ」という感じであふれていましたが。
それがどうだろう。天外魔境では声優のモノホンの声が流れている!!
ここでもまたまた、子供たちはショックを受けたのでした。
そう、天外魔境を立ち上げて、5分間の間に、プレイヤーは3度もショックを受けてしまった。
気になるゲームの内容ですが、グラフィックがキレイな上にマップが広大!
容量の限界に達していたファミコンでは、マップの広さにも制限がありましたが、天外魔境ではそれが無くなってしまったかのよう。
そして、天外魔境が他のRPGと明確に異なるのが、その世界観。
天外魔境では「レッドカンパニー」という本物のアニメ会社が参加していました。
そのため、天外魔境の世界観や背景の作り方は、ゲーム会社が自身で作ったものとはかけ離れており、各フィールドのエピソードやボスまでのシナリオ、そして長い旅を経てたどり着いた最後の大ボスとの戦いや、それを超えての大団円のエンディングは、もはや一つのアニメシリーズを鑑賞したかのような錯覚を、プレイヤーにもたらしたのです。
今ではこれは「フツー」のゲーム体験なのかもしれない。
しかし、その「フツーの体験」を最初に実現したのが、この「天外魔境ZIRIA」だったのです!
・・・・・・・ここまでだけでも、それまでのファミコン少年にとってはおなか一杯なのに、それに加えて天外魔境のBGMを作曲したのが、なんと坂本龍一!!
天外魔境発売の前年、坂本龍一氏は映画「ラストエンペラー」で、日本人初のアカデミー賞を獲得しており、知名度は世界レベルになっていました。
そんな超大物がゲームの音楽を作曲した、というのも十分衝撃的ですが、その曲が世界初のCDーROMのゲームで使用された、というのは、もう何かのめぐり合わせのような気がしてなりません。そして、とてもふさわしいと思う。
こうしてCD-ROMの機能を存分に発揮したゲーム、天外魔境が世に出ます。
これ以降、RPGはムービーシーンを取り入れた、映画作品のようなゲームが次々と発売されます。
現在では当たり前となったRPGの原型は、ハドソンによって作られたのでした。
6、イース1&2
今も続くゲームシリーズ「イース」。
その人気の源泉は、1987年に発売された「イース」と「イース2」にあります。
独特の世界観やキャラクター、秀逸なBGMが好評を博し、パソコンユーザーを中心にマニアックな人気を獲得しました。
ハドソンはそのイースを、当時、発売されて間もなかったPCエンジンの周辺機器であるCD-ROMに移植しようと試みます。
これは結構、難しかったのではないか、と思う。
というのも、当時、子供たちの間で一般的だったファミコンなどの家庭用ゲーム機のゲームと、まだ本格的には普及していなかったパソコンのゲームとでは、その性質があまりにも異なっていたのです。
家庭用ゲーム機のゲームは、子供がメインということで、わかりやすさや楽しさ、軽快感が求められていましたが、パソコンは違った。
当時のパソコンは、まだまだビジネス利用がメインで、家庭で持つ人は少なかった。というか、「仕事用のもの」とされていたので、各家庭で持つ理由もなかったのです。当時、インターネットはまだなく、電話回線を利用したパソコン通信はあったものの、それだけのために、当時で50万円以上もする高額なパソコンを所持する理由にはなりえませんでした。
そのため、パソコンを所有してゲームをする人も、大学生をメインとしたマニアックな人たちばかり。
そして発表されるパソコンのゲームも、アダルトから戦争もの、グロテスクなものなどが混在しており、独特の混とんとした世界が形成されていたのです。
その中でも日本ファルコムが発表するアクションRPGは、ストーリーはもちろん、グラフィック、BGMなど、あらゆる点で高い評価を得ていました。特に当時ファルコムに在籍し、後にゲームミュージックの大御所となる古代祐三氏が担当するBGMは、高い人気を得ていました。日本ファルコムはエログロ作品を発表することもなく、当時のパソコンゲーム界では「健全」なメーカとされていました。
・・・・・・・とはいえ、そこはパソコンゲーム。
ファンタジー作品と言っても、当時のファミコン少年にとっておなじみの「剣と魔法を駆使してお姫様を救出する」というわかりやすいものなどではなく、非常に複雑な背景や伏線がちりばめられいました。
またゲーム性もハードで当時のRPGゲームは、HP、MPなどのおなじみのバロメーターだけではなく、「空腹」「疲労」などのバロメーターも存在。その上、回復アイテムの総数が決まっているなど、とても子供にはプレイできない、非常にマニアックなゲームを制作してもいたのです。
イースは、そういったマニアック要素は極力、削られてはいましたが。
このマニアックなゲームを、どうやって家庭用ゲーム機に移植するのか。
詳細は、PCエンジン版のイースを手掛けた岩崎啓眞氏が深く語っているので、ここではあまり触れないでおくのですが、一部をお話しすると。
当時、ハドソンの重役となっていた中本伸一氏がイースのPCエンジンへの移植の許可を得ようとファルコムを訪れたところ、ファルコム側は非常に険悪なムードだったそうです。
というのも、以前、ハドソンは、ファルコムの名作「ザナドゥ」のファミコンへの移植の許可を得たのですが、完成した移植作は「ザナドゥ」とは似ても似つかぬ別作品となり、作品名も「ファザナドゥ」として発売された経緯がありました。このファザナドゥの移植を担当したハドソンの人は、ザナドゥについて全く知らないまま移植を任されたそうです。「ファザナドゥ」は、なかなか面白く今では「隠れた名作」とされていますが、決してザナドゥの移植作と言えるような代物ではなかった。
このファザナドゥの件で、ファルコムはハドソンに対し、怒りにも近い不信感を抱いていたそうです。そして「イース」移植の交渉も、許可するつもりはなかったようで、到底受け入れられないような版権使用料をハドソンの仲本氏にふっかけたそうなのですが、なんと中本氏はすぐに了承してしまった、とのこと。ちなみに中本氏もこの時点で「イース」について全く知らなかったそうです。
当時のハドソンや中本氏については、豪快なエピソードがあふれていますね。
ただ、ここから岩崎氏の苦闘が始まったそうで、「イース」はカオスのパソコンゲーム界でも「わかりやすい部類」とされてはいましたが、それでもファミコンのゲームに比べると難解だし、説明のない設定もあり、不親切の域にあったようです。でも、当時のゲームでは珍しくなかったのだけど。
このイースのマニアックな世界観を、家庭用ゲーム機でプレイする子供たちにわかりやすく伝えるための努力が、いくつものエピソードで語られています。ぜひ、岩崎氏の著作も読んでみてください。管理人も一部を購入させていただきました。
ともかく、そのように苦労したイースも、ついに「イース1・2」としてPCエンジンへの移植に成功!
独特のファンタジー世界については、CD-ROMの性能を生かしてアニメーションを多用することで分かりやすく説明され、登場人物一人ひとりに声優を当てることで、よりプレイヤーに親近感を抱かせました。
そして、このイースの移植の「肝」となったのが、「1」と「2」のつなぎのシーン。
パソコンで発売された「イース」は、一応、エンディングはあるものの、話の途中で終わっていました。そして「浮遊大陸」が舞台となる「2」が発売される。「1」と「2」がつながっているにも関わらず、ゲーム作品としては分断されている。
岩崎氏はこの「1」と「2」のつなぎを、アニメシーンで表現。
パソコン版の「2」の冒頭でも、「つなぎ」のアニメがあるのですが、決してわかりやすいものとはいえなかった。しかしハドソン版のイースでは、わかりにくい点もアニメシーンで分かりやすい形で伝えることができています。
そのため、「1」から「2」へスムーズに移行できる。
もともとオリジナルがしっかりしたファンタジー作品であった上で、CD-ROMの性能を生かしたアニメーションや声優の起用、生音によるBGMによって、PCエンジン版「イース1・2」は、まるでアニメ映画のような、高い完成度を実現し、大人気となりました。子供向けにマイルドにもなっているので、特に少年・少女の絶大な人気を得ることになります。
岩崎氏が手がけたハドソン版「イース」は、今でも評価が高く、数あるイースの移植作品の中でも最高峰とされています。
そして、このハドソン版「イース」の形は、後に他の機種に移植される際の「原型」となっていきます。
ファルコムの作品なのに、ハドソン版が移植の際の「ひな形」のようになってしまいます。
ここまで紹介した「天外魔境ZIRIA」「イース1・2」によって、RPGとアニメの共存が実現し、後のゲームではアニメーションシーンが不可欠になっていきます。そしてアニメとゲームの融合が、一層、加速していくことになります。
今日のRPG作品の原点を作ったのも、ハドソンと言えます。
今回は詳しく取り上げませんが、後に「ときめきメモリアル」という、ほぼアニメがメインのゲームが最初に発売されたのもPCエンジン。そう、世界に「恋愛シミュレーション」という、日本オリジナルの(恥ずかしい)ジャンルを生み出したのもPCエンジンだったのです。
また、天外魔境を手掛けたレッドカンパニーの広井王子氏は、後にセガサターンから「サクラ大戦」をリリースします。このサクラ大戦は大人気となり、アニメ化、舞台化など多方面で展開され、発売後、10年以上も舞台公演が行われる、息の長い巨大コンテンツとなります。
そう、今では常識となったゲームとアニメ融合を、最初に実現させたのもハドソンだったのです。
ハドソンがCD-ROM2で残したものは、今の日本にとどまらず、世界のゲームに影響を与え続けています。
続く