さて、前回までに海が凍ることがわかりました。
じゃあ、凍った氷はどうやって運ばれるか?というと、まずは「風」ですね。
前回までにオホーツク海には常に北からやってくる風と北西からやってくる風がある、と書きました。
この風によって、氷の塊、流氷が押されて南下します。
もう一つは「海流」です。
「南に流れている」と書きましたが、オホーツク海全体の視点で見れば反時計周りに回っている、ともいえる。
で、この東樺太海流ですが、流量が対馬海流の2倍、黒潮の3割にもなります!
ちなみに黒潮は、世界で2番目に流量の多い海流だそうです。
しかもこの樺太海流は、季節によって流量が異なり、冬は夏の10倍にも達するとのこと。
流氷は、この強力な海流に乗って運ばれるわけです。
で、その流氷にミネラルやプランクトンが付着して、運ばれてくる!
・・・・・・だけではないのですよ。
アムール川の淡水とオホーツク海の海水が混ざることで氷ができる、と書きました。
ただ、凍るのは塩分の少ない「真水」の部分。
海が凍る際に、真水だけが凍って、塩分やミネラルなどの成分は周囲の海水に残ることになります。
その分、凍らなかった海水は重くなる。
重いので、海のさらに低い層まで沈んでいく。
すると海底に出会います。
オホーツク海は水深の浅い海で、潜り込んだ海水は中層にすぐに行き着きます。
そして海底にぶち当たると、今度は海流に沿って海の中層を流れ始めます。
つまり流氷のしたで、中層の海水が流れる海流がある。
海流と言うのは、海面だけにあるわけではなく、深層にもあります。
この中層の海流に乗って、ミネラルも運ばれてくるのです。
また、流氷自身が「断熱材」となって、流氷下はむしろ表面よりも暖かくなっている。
でも、不思議じゃないですか?
氷なのに浮いている。
フツーは、液体から個体になると密度が大きくなり、液体よりも重くなるはず。
じゃあ、なんで流氷は浮いているのか?
なんと水は固体になると、液体よりも密度が小さくなってしまうのだ!
つまり同じ体積なら氷の方が、水よりも軽い!
これは水だけの性質です!水以外の物資は、個体の方が液体よりも重いのです!
脱線したけど、こうやってオホーツク海の移動してきた流氷とその下の中層のプランクトンですが、やがて北海道のオホーツク地方沿岸に「接岸」します。流氷は岸に向かって押され、中層のミネラルなどは岸にぶつかったら海底に沈む。
ここで問題が発生。
細菌が多いのは海の浅いところまで。
海でメインとなる光合成細菌は、光合成が可能な太陽の光が届く範囲でしか、生存できないからです。
流氷の結氷の際に取り込まれたり、流氷に付着したミネラルやプランクトンは、流氷が解けると同時に、光合成のできる浅層の細菌のエサとなることができますが、海底に沈んでしまったミネラルはどうなってしまうのか?
ここで次なる「ピタゴラスイッチ」が作動します。
以前の記事で登場した対馬海流です。
対馬海流は南西諸島付近で黒潮から分岐します。黒潮が太平洋を進むのに対して、対馬海流は日本海を北上。ついには北海道の宗谷岬に到達します。
宗谷岬を見てほしい。宗谷岬と樺太の間の宗谷海峡は、非常に幅が狭いです。しかもオホーツク海は日本海よりも浅いので、水深も浅い。
つまり非常に狭い「入口」に、対馬海流によって押し流されてきた海水が殺到するわけです。
どうなるのか?
対馬海流によって運ばれてきた海水が、この狭い海峡から、物凄い勢いで押し出されることになります。
ホースで水を撒く際に、ホースの口を指で狭くしてみてください。どうなります?
「蛇口」をそんなに回していなくても、勢いがついて水がホースから出てくるでしょ?
宗谷海峡は、まさに「指で狭めたホースの口」なのです。
宗谷海峡からものすごい勢いでオホーツク海に出てきた海水は、北からの東樺太海流とぶつかってさらに勢いを得て、早い海流となって北海道のオホーツク海沿岸に沿って東へ流れていきます。
オホーツク海沿岸には、湖の広さでは日本第三位のサロマ湖や、能取湖、トウフツ湖など、海とは細い陸地で境されただけの変わった湖がたくさんありますが、これらはもともと海でした。
宗谷海峡から押し流された対馬海流(オホーツク海に入ってからは宗谷海流と言われる)によって土砂が運ばれ、海岸線の凹んでいるところに土砂が溜まり、蓋をするように砂州が形成されたため。ちなみに少し内陸にある網走湖も、同じようにできた海跡湖です。
そう、オホーツク海沿岸の地形は、北海道のオホーツク地方からはるかに離れた南西諸島からやってきた対馬海流によって、作られているのです。
日本列島とは、噴火や地層の衝突だけでできたわけではありませんでした。
長くなったんで、続く