紀元前49年1月12日。
背後では、ともに過酷なガリア戦役を戦い抜いた将兵たちが、彼の命令を待ち続けている。
5日前、カエサルは元老院より「軍の解散」と「ガリア属州総督の解任」を通告され、本国への帰還を命じる「元老院最終勧告」を受けていた。
「元老院最終勧告」とは、ローマの最高意思決定機関である元老院が、共和制を脅かす者に対して行う法令であり、最終の通告でもあった。
これに従わないことは、元老院より公式に「ローマの敵」とみなされることを意味する。
日本史において、天皇もしくは朝廷に叛意があるとされたものが「朝敵」とされたように、ローマのアイデンティティーたる元老院に敵対する「国家の敵」と認定される。
カエサルのガリアでの軍事的成果の数々は、元老院が彼に猜疑心を抱かせるのに十分なものであった。
元老院はカエサルに対し、彼が首都ローマにいない隙に様々な政治的妨害を実行。ついにはカエサルの最大の政治的同盟者であったポンペイウスを元老院側に引き込むことに成功する。
中央政界において、カエサルを孤立させていった。
政治的にも軍事的にも、カエサルは追い詰められていた。
そして目の前のルビコン川。
法令により、軍を率いてローマに入城することは禁止されており、必ずルビコン川を渡る前に解散しなければならなかった。
軍を率いてルビコン川を渡ること。それはすなわち元老院、ひいては祖国「ローマ」への反逆の意志を示すことに他ならない。
もし軍を解散して渡河すれば、彼はすぐに拘束され、数々の罪状とともに政治的に抹殺され、最後には本当に命を奪われるだろう。
一方、もし軍を解散せずに渡河すれば、彼はたちまち「英雄」から「反逆者」へと立場を変えてしまう。
彼はようやく口を開いた。
「ここを超えれば人間世界の悲惨、越えなければわが身の破滅」
一見、どちらを選択しようとも、彼には絶望的な状況しか残されていないように思われた。
しかし、彼だけには、もう一つの選択肢が見えていた。
それは軍を率いてルビコンを渡り、ポンペイウスと元老院議員を破って彼が「最終勝利者」になる、ということ。
そして「最終勝利者」となってから、彼がルールを変えること。
すなわち、自らの手で黒を白に変えること!
これが彼に残された、たった一つの選択肢。
彼は自分の運命と国家の命運、あらゆるものをこれから始まる戦いに賭けてみる覚悟を決めていた。
「進もう、神々が待つところへ、我々を侮辱した敵の待つ所へ、賽は投げられた!!」
「おう!」という喊声で応える将兵たち。
彼らもカエサルに自らの運命をゆだねることを決め、迷うことなくルビコンを渡っていった。
そしてカエサルはポンペイウスと元老院議員を破り、新たな体制の指導者となってルールを変え、後世のローマに空前の繁栄をもたらしたのであった。
・・・・・もし、ルビコン渡河後にカエサルが負けていたら、どうなっていたのか?」
今やカエサルは欧米でも歴史のトップスターだが、敗北していれば「元老院に逆らった反逆者」として、粗末な扱いをされていたかもしれない。
勝てば世紀のスーパースター、負ければ大犯罪者。
彼はまさに「大勝負」に勝ったのでした。
21世紀になり、人生100年時代と言われるようになりました。
確かに人生は長いものの、全てをかけて挑む勝負所、というのは、実は数えるくらいしかない。
平凡な生活が続くと、「勝負どころがある」ということすら、忘れてしまいます。
でも、確かに「その先の方向を決める場面」というのがあるものです。
それは大抵、後に振り返ってようやく「ああ、あの時が勝負所だったんだなあ」とわかるもの。
そのあとで、どのような考えが続きますか?
「あの時があるから、今があるんだ」と実感するか、「あの時、もっとやっておけばよかった」と後悔するか。
まあ、後悔といってもタチの悪いものだけではないんだけどね。
でも、「あの時、もっとやっておけばよかった」という後悔をするとき、勝つか負けるかが大事なのではなく、もっとやり切っておけばよかった、というものではないでしょうか?
全力を出しても結果は同じかもしれない。それよりも後々の人生で「もっとやればよかった」いう後悔が残るかどうか、が大事なのではないか、と思うのです。
日本代表はいよいよスペイン戦を迎えます。
誰でも間違いなく言えるのは、こんな勝負所は滅多にない、ということ。
ワールドカップ自体が4年に一度しかない。
4年後の日本代表に選ばれている補償もなければ、そもそも日本がワールドカップに出場できるかどうかもわからない。
さらに言えば、この先の人生で、ここまで周囲の注目を集める機会など、ありえない!(と思う)
そんな機会がないまま年齢を重ねるのが、大抵の人の人生。
スペイン戦は、日本代表にとってまさに「ルビコン川」と言えます。
この川を、覚悟を持って渡るか、「負けるのではないか」と迷いながらわたるのか。
非常にわずかな人間しか手に入れることができない勝負所を、最大限に生かしてほしい。
そしてここで勝利すれば、先の敗戦の記憶も吹き飛び、英雄になれる!!
賽は投げられた!!
コロナの困難な中で開催された昨年のオリンピック、そして今年の冬季五輪は、閉じこもる生活が当たり前となった日常において、とても明るいニュースをもたらしてくれました。
その締めくくりとして、サッカーが注目を集める。とても光栄なことだとおもいます。
この2年間、実際にやらずともスポーツにはとても感謝しています。観戦するだけでも幸せになることができた。
後は全てを日本代表にゆだねます。
勝とうが負けようが、どっちでもいい!
ただただ「負けるのではないか」と恐れることはしないでくれ!
カエサルのように、人生最大級の勝負所で全てを出し切ることだけ考えてくれ!!
そして暗く重苦しかった「コロナの2年間」を、サッカーで吹き飛ばしてくれ!
そして自分たちの勝負所を正々堂々、戦い抜いてくれ!!
遠く極東の島国から、全力で幸運を祈る!!!