当ブログでは、「意識高い系」なる言葉が頻繁に出てきます。
今回は、「意識高い系とは何なのか?」の根本を問うお話をいたします。
北海道の北見市でのこと。
このお話は、北海道新聞の地方記事やネット版などでは掲載されているのですが、全道的には報道されていないと思われます。
2018年4月に北見市内の高校に進学した新一年生は、
「自分たちで地域の課題を発見し、その解決策を探る研究に取り組み始めた。」
とのこと。
この高校と言うのは
「先進的な理数系教育の実践校として「スーパーサイエンスハイスクール」(SSH、文部科学省主管)の指定を2017年度に受けており、今回の課題研究の取り組みはその一環。1年生は全員、2年生は理系科目を履修する生徒が対象で、5人ほどでグループをつくり、1年間かけて研究テーマの決定から調査、実験などをこなし、結果をまとめて発表する。」
というのが行われているのだそうです。
で、ある高校生グループが「帯広や釧路にはスターバックスがあるのに、なぜ北見にはないのか?」と疑問を口にしたそうです。
道東は北海道でも人口が少ない地域で、10万人以上の人口があるのは釧路、帯広、そして北見のみ。
その帯広や釧路にはすでにスターバックスが出店しているのに、なぜ北見にはないんだ?
確かにそうですね。
同時に、ご覧の方も思ったことでしょう。「田舎だからだろ」と。
そう、北見は11万人の都市ですが、オホーツク地方で一番大きな都市。江別や北広島、千歳などといった、札幌の大都市の衛星都市というわけでもなく、また周辺の地域とも険しい地形で隔てられており、気軽に「大都市」に行けるわけでもありません。
大人なら、あきらめるし、別にそれ以上、深く考えることもなかったことでしょう。
しかし、高校生たちは違った!!
彼らはあきらめず、調査を開始したのです。
彼らはまず「仮説」を立てることから始めたとのこと。
「《1》 人口に対して(北見の)面積は広い
《2》 同業他社がある
《3》 (地方のため)輸送の時間とコストがかかる
《4》 リピーターが少ない可能性がある
―など。これらがスタバの進出を阻む要因と考えた。」
上で大人たちが「田舎だから」と一言で終わらせた「理由」を、詳しく分解して明確にしていますね。(同業他社とは、既に進出していたドトールコーヒー1店舗のことと思われる)
ここから感心してしまう行動を、高校生たちは取るのです。
「まず検討したのは、国土交通省が2014年3月に公表した国土形成の理念「国土のグランドデザイン2050」の参考資料だ。ここに、東京など三大都市圏を除く地域について、自治体の人口規模の大小ごとにサービス施設が立地する確率を表したデータがあった。」
おいおいおい、どうやったらそんな発想ができるんだい?
こんなところをのデータを、よく見つけたね!?
「この中で、「スターバックスコーヒー」は人口17万5千人で立地確率が50%、27万5千人ならば80%と示されていた。
5人は、北見市の人口約11万8千人(2018年10月現在)を基に試算。この人口規模で、スタバが立地する確率は約33・7%とはじき出した。
北見市程度の人口の自治体では、スタバが立地する確率はかなり低い…。」
すげー!何かの数字をはじき出してる!
こんなことをはじき出せる大人が何人いるんだ?
しかし、彼らが工夫してはじき出した数値は、彼らにとっては悲観的なものとなってしまいました。
しかししかし!
彼らはここでもあきらめません!
次の行動を起こしたのです!!
「
そこで、北見市と同規模の人口でもスタバのある自治体と比べることにした。
注目したのは、千葉県印西(いんざい)市。北見市より少ない人口約10万人(2018年10月現在)にもかかわらず、印西市内にはスタバが3店舗もあった。印西市と比べれば、北見市に足りないモノが見つかるはず-。そう考えたのだ。
印西市との比較には、《1》人口《2》面積《3》最寄りの空港の平均発着数《4》大学数《5》同業他社数《6》年代別人口―の各データを使った。」
ここから先には、元記事には彼らが作ったデータ表が掲載されているのですが、素晴らしいですよ。
「その結果、《2》面積は北見市が10倍以上広い。一方、《3》平均発着数は、近隣に国際線の玄関口・成田空港のある印西市が、隣のオホーツク管内大空町に女満別空港を擁する北見市の約29倍もあり、交流人口が圧倒的に多いと想像できた。
さらに、《6》年代別人口は、「30代以下」がほぼ同数か、印西市の方が多いものの、「40代以上」は全年代で北見市が多かった。このことから、5人は「(スタバが北見に誘致できない要因として)高齢者の割合が高いことや、交流人口がさほど多くないことなどが挙げられると考察した。一方、スタバでアルバイト経験のある教育実習生から、出店地域の学生数や交通量なども目安になっているようだ」との情報も得た。」
これは素晴らしい着眼点ですね。地元の調査だけで終わらせず、道外の都市を調査して、地元と比較する、ということを行ってしまいます!
しかし、結果は、やはり決して楽観的なものではなく、その現実を2018年11月の中間報告会で発表した、とのこと。
中間発表ではありますが、高校生5人の「挑戦」は、ここで一区切りとなります。
まだ社会に出てもいない高校生という立場では、「調査」以上のことはできないのは仕方ない。
しかし!
何かをやれば、何かが動く、とはよく言ったもの!
「その内容は、北見市内の関係者を通じ、スタバの札幌の出店担当者に届けられた。担当者からは「研究に対して好印象を持っています。北見市民の期待に応えられるよう、積極的に出店に取り組みたい」というメッセージが、5人に伝えられた。」
なんとスターバックスの関係者に、彼らの「声」が届けられた!!
でもフツーなら、「大人の人に認められた!」で終わることでしょう。
しかししかししかし!
彼らはここで止まらなかった。むしろこれを「足がかり」と考えた!
「5人はスタバ担当者とつながりが持てたのを機に、出店の際に参考にしているポイントについて電子メールで質問した。」
すげー!!大人も驚きの行動力!!
「すると、スタバから「ドライブ商圏人口(車で20分以内の商圏)に、どれぐらいの人口がいるか」「(敷地の)前面道路の交通量」「敷地面積や地形、間口、車での入りやすさ」「周辺環境(ブランドイメージとのフィット感)」などの回答が寄せられた。」
なんと東京のスターバックスがその声にこたえ、かなり具体的な「ヒント」を彼らに提示した!!
もちろん高校生たちは止まらない
「この内容を踏まえ、5人は次の調査に乗り出す。2018年12月、同校の1年生228人を対象に、「北見市の改善すべきところ(不便だと感じるところ)」について、自由記述式でアンケートを行った。」
感心してしまった!
本社からの回答、にとどまらず、自分たちでさらなる行動をしている!
228人にアンケートをする、って、かなり大変ですよ!これを手作りでやってしまったんだから、行動力と根気がないと貫徹できない!
「その結果を「経済」「交通」「娯楽」「自然」などのジャンルごとに分け、さらに「肯定的な評価」と「否定的な評価」の二つに仕分けて分析した。
「否定的な評価」で最も多かったのは「経済」で、「飲食店のバリエーションが少ない」「流行のものが伝わるのが、遅い」など意見が目立った。次が「交通」で、「電車やバスの本数が少ない」などの指摘があった。」
彼らは広く意見を集めました。正直言って、ここまでの調査を会社がしようとすると、結構な費用と時間がかかりますよ。それを自分で行った!
「この結果から、5人は「北見は公共交通が弱いため、車の利用者が多い。スタバは十分な広さの駐車場の確保を懸念しているのでは」「(北見の)問題点に注目するのではなく、魅力としてアピールできればスタバ誘致につながるのでは」などと結論付け、1年生の終わりにまとめた。」
大人たちよ、見てくれ!
まるで会社のプレゼン文章に乗ってもおかしくないほど、具体的な内容になっているじゃないか!!
一方のスターバックスの側でも、高校生が動く前から北見進出を検討していたそうです。
「そのころ、スタバ東京本社にも5人の取り組みが伝わっていた。地元にスタバを誘致しようと、一生懸命調べる高校生の姿は社員を大いに励ました。」
そして担当の方は以下のように答えています。
「「分からないじゃないですか、やっぱり。出店に向けた準備はしていましたが、開店しても本当に北見の人が来てくれるのか、どうか。スタバが地域に受け入れてもらえるのか、どうか。でも、高校生の取り組みを知って、これなら大丈夫だな、と。地域の人が期待してくれてるんだな、と」」
全く未知の場所に進出する、というのは、大企業でも判断が難しいとのこと。その時に地元の方から詳細な調査結果を提示してくれたのだから、ありがたいですよね。
これ、高校生が誘致した、というのも大きいのではないでしょうか?
若者向けのチェーンだけに、自分のようなオッサン世代が誘致しても無理だったのでは?
そして今や3年生となっていた彼らは、2020年10月30日、開店前のスターバックス北見三輪店に招待された、とのこと。(正式オープン日は2020年11月2日)
そう、実現しちゃったのです!!
「意識高い系」と言う言葉は、「ビジネス」という言葉とリンクしています。
そして「ビジネス系」と称して、様々なスクールに出たり、サロンに加入したり、経済のカリスマの著書を読むことを勧められます。
「勉強ツアー」と称して、なぜかハワイで集団でヨガをやっていたりする。参加者はそれらをビジネスの成功への大切な通過点と思って、主催者を信じて行っている。
でも、この記事にある高校生のように、実際に具体的に行動しているでしょうか?
何かを独自に「調査」しているでしょうか?
傍から見れば、受動的にセミナーを受けてばかりいるよりも、主体的に動いた高校生たちの方が、ビジネス的成功に近くなっているように思います。
「リーダーを育てるセミナー」にウン十万円払うよりも、地道に行動した彼らの方に、強いリーダーシップを感じます。
自分は目的を実現するために行動した結果、もしくは目的達成に徹した結果、意識が高くなった、という方は尊敬してしまいます。自分でもできないことなので。
また、自分を律するため、もしくは生活を楽しむため、センスの良いものを身に着けるために徹することも素晴らしいと思います。
そこが「意識高い系」と「意識が高い」の違い、と思います。
「意識高い系」とは何なのでしょうか?「ビジネス系」とは何なのでしょうか?
今は高校を卒業していると思われる、この高校生グループには、くれぐれもこれで「自分たちには才能がある」「自分たちは天才だ!」なんて勘違いをしないでもらいたい、と思います。
それでは「意識高い系」になってしまう。
彼らが重ねた地道の行程を一切やらずに、「俺にはセンスがある」「ビジネス能力がある」という根拠のない自信をもち、「コミュニケーション能力」だけが成功法と思ってしまう、ありがちな大人(意識高い系)にはなってほしくない。
信じるべきは「才能」や「センス」ではなく、実際に自分で行った「過程」であることを忘れないでほしいですね。